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『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』9巻感想

かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』9巻の感想を。ネタバレです。

 

かぐや様は告らせたい?天才たちの恋愛頭脳戦? 9 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

 

前書き

かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』は週刊ヤングジャンプで連載中の漫画。ジャンル的にはラブコメ?です。男女の主役二人とも天才で、お互いがお互いを惚れさせようとしているという前提。お互いの人間心理を高度に読みあったり、なんてことのない学校のイベントを肴に鋭い駆け引きをしたり、というお話。こう書くとなんだかちょっと堅苦しいような感じもしますが、全然そんなことなく、むしろお互い好きあってるのに素直になれず、明後日の方向に突拍子もない行動をしまくる主役二人の天然ぷり+可愛らしさにニヤニヤする、そんなゆるーいコメディです。
 というわけで九巻。まったり一話完結ペースだった前回とはちょっと毛色が異なり、いつも通りの一話完結ネタもありますが、連話構成の体育祭イベントが九巻のメインテーマ。御行やかぐやが主役と思いきや、石上会計がなんと話の中心人物として抜擢。色々と匂わせていた彼の過去の補完と、それに繋がる現在のあり方を問う、若干シリアスなお話となっています。表紙にも御行に続いてようやっと男性陣として抜擢。

感想

 過去に向き合う

 現在の、オタク的ビジュアルと、斜に構えた態度とデリカシー欠如の言動で、たびたび生徒会女性陣の不興を買う石上会計ですが、彼のそうなったルーツが今巻で語られます。
 石上会計はネガティブな印象と同じくらい「人を見抜ける」人間とたびたび作中で語られていましたが、かつての彼はその自身の性質を表には出さずとも、「正しさ」や「潔白」を求めるための手段として心中に掲げていました。当時の彼は短髪で清潔感があり、そういう意味でも今とは異なるスタンスであったと分かります。
 そのスタンスに則り、一人の女子生徒を陰ながら救おうとしますが、しかしその清廉潔白さは下衆な人間に欺かれ利用され、彼は無実でありながらクラスメイトに断罪され、救えたはずの女子にも嫌悪され、大人も彼の言葉に耳を貸さず、結局石上少年は学校に居場所がなくなり、不条理な現実と、残酷な世界に押し潰されてしまいます。その結果、現在の石上会計の姿が生まれました。
 結局、彼の真実の行動とその本質は、虚偽のレッテルを貼られ誰にも気付かれずに埋もれていくはずでした。だけど、捨てる神あれば拾う神あり、彼の真実に気づける人間がわずかに存在しました。

 うるせえバァカ!!

 生徒会長の面々、伊井野さん。作中で今まで描かれているように、彼らは等しく人を優しく慮れる存在です。人を優しく慮れるというのは、人の本来の感情に気付けるということでもあります。彼らの存在が、石上少年を絶望から光へと引き上げました。
 特に、生徒会長の御行が掲げたひと言、「うるせえバァカ!!」は、彼の優しさと強さが詰まったひと言です。簡単に言える言葉ではない。特に、誰よりも人を見抜き、人を助けようと考えていた石上少年には。だからこそ、御行がその一言を代弁してくれたことが、自分の呪縛を解き放つ、ひとつの救いになったことは想像に難くありません。
 石上少年のかつての絶望が再現しそうになった体育祭でしたが、御行のそのひと言を思い出したことで、石上会計は奮起しました。そうして、彼の見えている世界は決して不条理で残酷なもの「だけではない」ことを理解した。結果、石上会計は、ひとつの成長を成し遂げることができました。
 とても良き話ですし、ちょっとウルウルしました。個人的に特筆したいことがあって、生徒会の面々って、普段のパートだとぶっちゃけポンコツじゃないですか(笑)かぐやとか御行とかいつまでイチャイチャしてんだ!とか、藤原書記ちょっと黒いよ!とか、伊井野さん弄られキャラじゃん!とか。でも、石上少年を救ったときのように、ガチったらめちゃくちゃ、頼もしいんですよね。なるほど確かに生徒会という学生の代表となり得る素質があるし、能力も十分あるのだと。生徒に支持されるのも当然だと。色々とポンコツなのは確かだけど、それ以上に特別な力を持つ存在だと圧倒的に描写されて、ちょっと鳥肌が立つくらい彼らがかっこよかったです。

終わりに

 石上会計の過去話が補完されましたが、他の生徒会の面々も、それなりに過去を抱えているとは思うんですよね。人には気軽に明かせない二面性があって、それを知って恋をしたり、あるいはちょっとビビったり(笑)、あるいは仲間として助け合ったり。そうやって、人は成長していくんだと思います。 
 決して物珍しいプロットではないでしょうが、正道の成長物語として十分に楽しめた内容でした。では、九巻の感想はここまで!お暇がありましたら、次巻の感想でお会いしましょう。

 以上、感想でした。