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『ベイビー、グッドモーニング 特別版』感想

『ベイビー、グッドモーニング 特別版』のネタバレ感想です。

ベイビー、グッドモーニング 特別版 A life-size lie (角川スニーカー文庫)

概要

「私は死神です。つい先ほど、貴方は死ぬ予定でした。でも誠に勝手ながら、寿命を三日ほど延長させて頂きました」夏の病院。入院中の少年の前に現れたのは、ミニスカートに白いTシャツの少女だった。死神には、月ごとに集める魂の“ノルマ”があり、綺麗なところをより集めて新しい魂にする=「ペットボトルのリサイクルみたいなもの」と言うのだが……。『サクラダリセット』の河野裕&椎名優が贈る、死神と濁った魂の物語。文庫本から、短編一本をシングルカットした電子特別版!

Amazon紹介より

感想

 特に理由なく河野裕氏の作品を読みたくなったので、Kindleで探していたところ、サラッと読めそうなこの短編が目に入り、購入しました。
 河野裕氏は『サクラダリセット』シリーズと『階段島』シリーズは読了済みです。文体や話の作りがすごく自分好みで、現代小説家の中では、十指に入るくらいお気に入りの作家です。
 
 病床で死を間際にした少年の一話です。
 死ぬことってすごく単純なようでいて、すごく複雑なことです。すごく個人的な問題かと思いきや、すごく集団的な問題でもあったりします。主人公の少年も、そうしたギャップに直面します。生きることを諦めていると口では言っても、本当は死にたくない。見舞いに来てくれている友人の少女を嫉妬で疎ましく思っていながら、死の間際では彼女と幸せに過ごす未来を夢見る。
 
 死神が用意した3日のロスタイムは、彼が綺麗な死を迎えるための猶予でした。誰にも言葉伝えず、看取られずに消え去るような死、を少年は綺麗な死だと思っていました。しかし、死神はそれは綺麗な死ではないと言います。そうではなく、死ぬことに真摯に向き合うこと。そうして最後まで生きることを選ぼうとする「人間のまま」で、死を迎えること。それこそが、きっと正しい人の死に方なのです。

 少年はロスタイムの中、友人の少女と最期の邂逅で、彼女に優しい嘘を重ねることで、彼女の背中を送り出しました。それは彼の自身への納得を含めた優しさであり、友人の少女も、どれだけ少年が肯定的な言葉を繕おうとも、少年が死ぬであろうことを理解していると、最後の涙で示されています。それでも、彼女はその少年の拙くも優しい嘘を受け入れました。
 少年は母への言葉を、読んでいた本に忍ばせました。死神に猶予をもらう前はしなかった行動です。母に自分の言葉が伝わるかどうかは分からないけれど、それでも彼はそうしようと思いました。そして、「しっかり死にたくない」と思いながら、少女に向けたような優しい言葉に思い馳せながら、最後の瞬間を待ちます。彼はそうすることで、「人間のまま」納得して綺麗に死ぬことが果たせるのです。

 どうせ死ぬなら、諦めて腐って呪ってあっさり死ぬより、人として持てる優しく温かい言葉を大切な存在に伝えて死にたい。それだけの単純な話なんですが、死ぬことなんて、どれだけ突き詰めたって結局単純で個人的なことなんだと思うんですよ。どんな人間だって不可避な事象で、ちっぽけな一人の人間がこの世界から消えていく。昨日だって今日だって明日だって、世界中のどこかで間違いなく起きている在り来りなイベントです。そして、死ぬことに対して真実、共感を得ることは不可能だし、最後はたった一人で死に相対しなければいけない。でも、そんな単純で個人的なことだからこそ、その瞬間をしっかり納得して、それでもまだ見ぬ明日へと夢を託すような死を迎えたい、と自分も思ったりします。

 以上、感想でした。