『五等分の花嫁』10巻感想
『五等分の花嫁』10巻の感想を。ネタバレです。
前書き
『五等分の花嫁』は週刊少年マガジンで連載中の漫画。ジャンル的にはラブコメです。今なにかと流行りの家庭教師モノ?で、学年成績最優秀の上杉風太郎君が、仕事の依頼として、赤点常連の同級生の五つ子女子の家庭教師をする……だけど苦労ありハプニングありイベントあり色恋あり……というのが大まかな筋。
ヒロインが五つ子姉妹というのが重要な部分です。姉妹たちは顔立ちはそっくりなのですが、性格はもとより得意分野、趣味嗜好などがまったく異なる個性溢れる姉妹で、各々が物語を華やかに彩る魅力的なヒロインとなっております。
将来、風太郎は五つ子の誰かと結婚するというのが物語冒頭で明示されていて、五つ子の誰が風太郎の花嫁なのか、というライトなミステリ要素もある作品ですね。
というわけで10巻。今巻はまるまる京都へ修学旅行編。
ここ最近の巻でずっと描かれてきた、姉妹各々の風太郎への感情が最高潮へと達し、姉妹間の人間関係がギスギスに絡みに絡み。臨界点を迎えたところで、花火大会のときに描写された本来の姉妹五人のあり方を改めて問う、というカタチでしたね。
自分の早計の可能性も高いですし、裏切られる可能性もすごく高いと思うのですが、誰がどういう形で風太郎との関係の決着を迎えるのか、というのも朧気ながら見えてきた感も。人間関係の精算が描かれ始めてきた印象で、『五等分の花嫁』のゴールが見えてきましたね。
キャラ感想
・風太郎
相変わらず苦労人である。というか、風太郎はもはや五つ子の保護者というか、仕事で今風に言うならメンターみたいな立場になってるよね。彼女たちの単なる同級生の友達というレベルではなく、悩み、苦しみ、恋心、将来、そういった抱えるモノを真っ向から受け止めてケアしてんだからねぇ。
オトコ友達と楽しくやってるときが風太郎が一番幸せなんじゃないか、とどこかで読んだのだけど、ここまで重い感情(しかも一人一人方向性が異なる感情)をずっと五人の女子から向けられたら、そりゃオトコと能天気にやってるほうが幸せだろう、と自分もちょっと思います。
ただ、もちろん我らが風太郎はそんなヘタレな逃げはせず、しっかり彼女たちと向き合ってますから、やはり主人公の器である。
・一花
まぁ、どうやっても罰を受けなければいけない立場でした。前巻と今巻の一花の行動は、成功も失敗も一花個人で完結することじゃなくて、三玖をも巻き込んでしまうことだったからね。
ただ、今まで長女として守ってきた姉妹と、恋する風太郎を天秤に掛け、それでも風太郎への気持ちを選んだ。一花の気持ちは本気だったのだろうと思います。その気持ちから流れ出た涙は、決して嘘じゃない。
・二乃
二乃はあくまで正道を進む子なんですよね。自分が幸せになることに躊躇いはないけれど、それは誰かを傷つけたり、泣かせたりして、成し遂げることではない。周囲も、相手も、自分も、全員が祝福できるやり方だけを望んでいる。その差が今の一花との違いなのでしょう。その道はすげー大変だと思うけれど、二乃の「真っ直ぐさ」ならそれができるだろうと思わせてくれる、そんな頼もしさが二乃の良さです。
ただ今回に関して、一花のやり方がまったく間違っているとか、二乃のやり方が全面的に正しいとか、自分はそういう気持ちには全然なりません。風太郎も言及してましたが、人が幸せになるなら、誰かを蹴落として、誰かを傷つけなければいけない瞬間も必ずあるからね。日々を過ごす中で、理想と現実が一致しないのはよくあることです。それを思えば、自分はそんな簡単に善悪を決められん。
・三玖
自分の中で、今巻の扱いで、一番花嫁に近づいたのは三玖だろうなぁという感覚。姉に自分のことを利用されてショックを受けて、うまく告白できず自分に取り柄はないと悲しんで、でも最後には他の姉妹全員に手伝ってもらいながら、自分の気持ちを好きな人に伝える。落として上げる、凄まじいメインヒロイン力と言わざるを得ない。
一花も二乃もある意味ではカマセじゃねーかと感じる理想的ヒロインムーブで、逆にこれで花嫁にならなきゃ三玖さんが報われなさすぎるだろうと思わざるを得ない。二乃の理想とする全員が祝福するゴールも、今巻の流れを見る限りでは三玖ならば条件に合致しているしね。
・四葉
そんな完全体に近づきつつある三玖さんの恋愛力に物語において唯一対抗できそうなのが、ラスボス感ある四葉さんですね。『五等分の花嫁』の最重要な存在である、風太郎の初恋のルーツとなった過去に出会った少女が四葉だと、今巻の最後に明かされました。そうなると、今まで描かれてきた四葉の言動は、全く別の意味を帯びるわけで。
他の姉妹と違って意図的に省かれているモノローグに、幾度か見せる憂いを帯びた表情。推理小説の犯人のごとく、四葉という少女の真実を語ることで、物語はいよいよラストスパートへ、感がマシマシですね。
・五月
前巻もそうですが、他四人がガッツリシリアスになるなかで、どこか天然な動きをする五月さんにめっちゃ癒されますね(笑)
読者的には今まで、同じ恋愛感情外野勢だと思っていた四葉ですら、風太郎に対してなんらかの重大な感情を抱えていると分かった今、そんな素振りをほとんど見せない五月さんの実家のような安心感よ。今まで四葉を手伝っていたとは解釈はできるけど、それは四葉を思って、ということだろうしね。
この先五月が恋愛感情を持ってももちろん良いのですが、風太郎に対してこの距離感を保ってほしいという思いも。みんながみんな、深刻になると読んでてツライからね(笑)
終わりに
物語が恋愛一色になって、このまま姉妹同士が血で血を洗う、シリアスでギスギス昼ドラ展開、読者的に胃が痛いまま進むのかと思いきや、しっかりと五人の絆を再確認させる流れに戻したのはすごいと思いました。
花火大会で明示されたとおり、五人の絆は五人のルーツ、決して蔑ろにして良いことじゃないからね。最終的に恋愛よりも姉妹愛を優先したことに、作者である春場ねぎ先生の確固とした意志を感じるところでした。
以上、感想でした。