はぐれ中継基地Ver2.0

小説・漫画・映画・ゲーム /  感想

『麒麟の翼 〜劇場版・新参者〜』感想

 映画『麒麟の翼 〜劇場版・新参者〜』視聴したので感想を。ネタバレです。

映画「麒麟の翼 ?劇場版・新参者?」【TBSオンデマンド】

 前置き 

 映画『麒麟の翼 〜劇場版・新参者〜』はミステリ作家東野圭吾氏原作の『麒麟の翼』の実写劇場版作品。2012年封切りです。日曜連続ドラマとして放映していた『加賀恭一郎(新参者)シリーズ』がもともとのシリーズで、それの映画化が『麒麟の翼 〜劇場版・新参者〜』ですね。自分はドラマは見てません。実写版は劇場版が初めてです。原作の『加賀恭一郎シリーズ』はちょくちょく読んでいる程度です。なので、シリーズにがっつり詳しいというわけでは全然なく、かなりニワカな感想になってしまいそうですが、どうかご容赦。

感想

 まずは全体的なビジュアルを。
 主人公である『加賀恭一郎』は阿部寛氏が演じております。阿部氏はかなり彫りの深い顔立ちなので、アクがあると言えばある。でもこの作品においては、加賀恭一郎の飄々として、不器用で、でも鋭い、そんな裏表あるキャラクター像に、その濃さがうまくマッチしています。もともとの話自体が動きの少ない刑事モノというジャンルなので、あんまり淡白なイケメンだったりすると、絵的な迫力がかなりなくなってしまうんじゃないかと思うんですよね。そういう意味でも、大柄で彫の深い阿部氏は最適じゃないかと。
 他に重要な役どころとしては、事件の被害者役である中井貴一氏や、容疑者の恋人役である新垣結衣氏、被害者の息子である松坂桃李氏など。
 
 ネタバレ前提の記事なので書きますが、被害者役である中井氏の役どころは『麒麟の翼』で一番重要かつおいしい役で、中井氏は安定的に演じております。事件の核心に触れる描写が多いので、ここが雑だと一気に陳腐になってしまう。
 新垣氏の役は、事件の趨勢に二転三転と振り回される悲劇のヒロインで、その薄倖さが新垣氏の魅力をいい感じに引き出してましたね。最終的にポジティブな形で幕引きができて、薄倖のヒロインから前向きなヒロインへと変遷する流れが、心地の良い清涼感を与えてくれました。
 松坂氏の役は、ある意味で『麒麟の翼』という物語の犯人役とも言えるポジションで、若さで表に出すことができずとも、自分の犯した罪とそれに対する贖いを不器用に求める、青々しい少年です。センシティブな役どころで、中井氏の役どころと同じく、ここが雑だと話の陳腐化は避けられないので、しっかり演じられていたと思います。
 
 日本橋麒麟像がメインシンボルとなり、物語は日本橋の周辺で進みます。正直、ビジュアル的に映えるってシーンは象徴である麒麟像を除くとあまりなく、いかにも東京の下町、というシーンが続きます。地味ですが、この作品自体が地道に足で事件を追う刑事モノなので、そういう意味ではマッチしていると思います。それがこのシリーズの特色で、派手なところで推理大会!というジャンルではないですからね。
 個人的に面白いと思ったシーンがあって、なんか、刑事さんたちがみんな仲がいいんですよね。いや、仲がいいというと語弊があるかな、しっかり連携されているというのかな。現実的に考えれば刑事が連携するのは当然だと思うのですが、こういうフィクションものって大体は横や上下の関係で対立したり反目したりというのが恒例で。そういうのがなく、すんなりと会議などが進んでいくのを見ると、東野氏のリアリティを求めるスタンスが垣間見えて面白かったです。

 話の感想を。
 東野圭吾氏の作品に触れるとよく思うのですが、「最初は小さな事件から。でもそれは単なる小さな事件ではなく、大きな意味を持っていて、最終的にそれが多くの人に影響を与える」って話の構成を見るな、と。『麒麟の翼』も典型的なそのタイプの作品で、単純な殺人事件かと思いきや、そこに隠された多くの人の思惑があって…という流れです。
 ただ。東野圭吾氏の非凡なところは、そういうある種のテンプレートな部分を、レベルの高いミステリと、感動できる人情劇でコーティングして、一本に繋がった非凡な話として仕上げてしまう部分なんですよね。
 特に、被害者の行動はストレートに感動を誘われる。何度も描写される理解不能な行動。大した意味などない奇矯な振る舞いかと思いきや、実はそこには凄まじく深い意味合いが込められていた…そこが明らかになるシーンは、言葉ではうまく言い表せられないカタルシスを味わいました。
 そして、各々の登場人物への救済も。主要な登場人物は一様に重いものを背負い、一様に苦しみますが、最終的にそれらの枷は加賀の尽力で取り払われ、ゼロからふたたび羽ばたくための翼を与えられます。見終わって不快な部分はほとんどなく、綺麗なエンディングを求めて映画を見る方には、一服の心地良い清涼感を与えてくれたんじゃないかな、と思います。

終わりに

 ケチをつける部分は自分にとってほとんどない、とても安定した一作でした。東野圭吾氏の映画作品はまだけっこうあるようなので、時間を見て視聴してみようかと思います。 

 以上、感想でした。